思いは出さずに入れておく
壁にかかった抽象画や吊るされたドライフラワー、瓶に詰まったポプリの香り。
いつからこの部屋はこんなことになったのだろう。
読みづらい哲学書やほこりをかぶったアーティストの画集、デート特集のポパイの表紙。
いつしかこんなものが役に立つときがくるだろうか。
午前3時、ねむれないよるにねむろうとしていた。
どうにも睡眠が下手なので、諦めてタスクの処理に手をまわしてみるけれど、
もう来ている明日との付き合い方がわからず、作業の手を止めてしまった。
たいして好きなわけでもないはずの、思い出に寄り添った曲を聴いて、
美化された過去に癒されるなど、安っぽい情緒に頼ってみたけれど、
特に状況は好転するわけもなく、正体のわからない嫌な感情と一緒にいる。
抱きしめた彼女の背中に描かれたタトゥーは、別にすきな絵柄じゃない。
でも、肌色の続きに、肌色が来る風景にも飽きていたから、
すきかどうか関係なくすき。
自然で溢れるおおきな公園のわきにある、おおきなすべり台をすべった。
せまい原っぱの上に寝転がって、くもの動きを目で追った。
「野鳥の会の会員です」という見え透いた嘘が本当らしくなるように、鳥の写真を撮った。
背もたれのついたブランコは、揺れの激しい乗り物みたいで、具合が悪くなった。
思い出になる前から美しくて、思い出になったらどれだけ美しくなるのか楽しみになった。
出す前に、まずは入れておこうとおもった。
つぎはじぶん。